絵本と発達、その関係って?

子育てに絵本は欠かせないと知っていても、どう選べばいいのか分からない…。その悩み、解決しましょう!
絵本って、何ですか?
「心を動かし、育ててくれるもの」
絵本とは? という問いに、そう教えてくれた生田恵津子教授。長年、幼児保育に携われてきた生田先生は、こう続けます。
「私は、食べ物が身体を作ることと同じように、絵本は心を作るものだとずっと思っています。子どもたちは、栄養豊かな食事を摂ることで血肉が作られ、遊びを通じて活動のエネルギーを生んでいます。そして、お父さんやお母さん、先生など、身近な人に心を込めて絵本を読んでもらうことで、ドキドキワクワクする。その経験が〝心〟を動かし、〝心〟を育てていくのです」
絵本を読んでもらっているときの子どもは、読んでくれる人の言葉を耳で聞き、お話のイメージを頭の中に描いていく。そのとき、イメージを補ってくれるのが、描かれている絵の存在なのです。そして絵本は、大きく二つに分けられ、それが〝ものがたり絵本〟と〝かがく絵本〟です。
「ものがたり絵本は、想像力を働かせながら、繰り返し物語を楽しむことで、空想の世界と現実の世界を自由に往復する力を育てます。この力は、簡単に答えが出ない場合でも、その時々の状況を楽しみながら、自由に希望をもって進んでいくための大きな助けになるでしょう。次にかがく絵本は、不思議の入り口となり、子どもたちに知らない世界を気づかせてくれます。つまり、探索の喜びや不思議との出会いなのです。絵本選びは、効果を期待するのではなく、その時々の〝心の糧〟になる良質な作品を見極めなければならないとも言えます。何かを教えるために選ぶのではなく、子どもの心が動く作品をぜひ選んでくださいね」
心が動く作品を「読み合う」こと。
生田先生が教壇に立つ松本短期大学には、学校の独自科目として「子どもと絵本」が開講されています。もちろん、この科目を担当するのは生田先生ご本人。
「授業では、まず子どもの発達過程(目、耳、言葉、その子どもとの関係性)をまとめ、発達と絵本の関係を年齢別に学びます。でも、そこでも口酸っぱく伝えていますが、あくまで目安に過ぎません。何歳だからこの絵本でないといけないなんて、ないんです。それを前提にして聞いてくださいね」
子どもの発達と絵本の関係は目安であることを念頭に置いた上で、まず知っておきたいのが、子どもの視力と視野のこと。
「赤ちゃんの視力は、生まれてすぐはぼんやりと明るさが分かる程度。6ヵ月ころにようやく両眼で物を捉えられる奥行知覚を獲得し、大人と同等に見えるようになるのは4歳から6歳。低年齢のうちは、輪郭や色がはっきりしている絵が認識しやすいのでおすすめです。そして、意外と知られていないのが視野のこと。大人の視野は左右170度あるのに対し、乳幼児期は90度しかありません。大人が見えている範囲と違うことをまずは理解して、絵本を正面で見せるなど工夫をしてあげましょう」
また、絵本を読む環境も気をつけたいところ。3歳くらいまでは、落ち着いた雰囲気で、保護者の膝の上に座らせ抱っこしながら読むことがおすすめだそう。
「大好きな人の体温を感じながらだと、子どもは心地よく聞けるでしょう。集団の場合は、背景を整理することで絵本に集中できます。灯りも大切で、読む人は灯りを背負わないように注意してください」
そして何より大切なのが、読み手と聞き手が楽しい時間を共有すること。
「絵本を読んであげることを、私は〝読み合い〟と表現します。だって、子どもと一緒に絵本を読む時間ってすごく幸せなことだから。読んであげなきゃではなく、お互いにただ絵本を楽しめばいいのです」
生田先生に聞きました! 「絵本のお悩み相談室」
ストーリーを最後まで聞いてくれないことが。これでいいの?
小さな子どもにとって、絵本はおもちゃの一つです。かじったりもしますし、読んでいる途中に次々ページをめくることも、途中で別の遊びに移ることもごく自然なこと。お子さんのしたいようにさせてあげてください。無理強いしては、絵本が嫌いになってしまいますよ。
対象年齢とはズレた絵本にばかり興味を持つのは変ですか?
対象年齢は、あくまで目安。「それは赤ちゃんの本だよ」「難しくてまだ分からないでしょ」なんて、大人の考え。子どもなりに絵本を理解すればいいんです。子どもは、大人以上にいろいろなことを考えています。興味は心の動きの現れですから、ぜひ大切にしてあげてください。
同じ本ばかり読まされます。別の本に興味を持つコツは?
お気に入りの絵本があることは、とても幸せなことです。お子さんが飽きるまで、どんどん読んであげてください。必ず次に進むときがきます。無理に別の絵本に興味を向かせなくて大丈夫ですからね。
おすすめ絵本リスト
生田先生に教えていただいた、発達に合った絵本をご紹介。
「でもね、何歳だからこれを読まないといけないということではありませんからね。お子さんと一緒に楽しさを感じながら読み合うことが大切ですよ」(生田先生)
0歳「絵本の準備の時間」
赤ちゃんにとって絵本はおもちゃの位置付け。日常の遊びの延長として、スキンシップをとりながら絵本を読みましょう。視覚の発達段階なので、輪郭のはっきりした絵、色彩が鮮やかなものを選ぶと認識しやすい。オノマトペと言われる擬音語や擬態語の繰り返しを好むので、言葉のリズムが心地よい絵本がおすすめ。
- 『いないいないばあ』 松谷みよ子 文 瀬川康男 絵 童心社
- 『くだもの』 平山和子 作 福音館書店
- 『じゃあじゃあびりびり』 まついのりこ 作・絵 偕成社
- 『ぽんちんぱん』 柿木原政広 作 福音館書店
- 『おつきさまこんばんは』 林 明子 作 福音館書店
- 『ころ ころ ころ』 元永定正 作 福音館書店
- 『あかちゃんとわらべうたであそびましょ!』 さいとうしのぶ 絵 のら書店
1・2歳「言葉を楽しむおもちゃ」
徐々に言葉を理解でき始め、簡単な繰り返しのフレーズを一緒に声に出しながら、ときには身体を動かしながら楽しんでみて。一般的に2歳後半から物語を理解できるようになるけれど、理解力には個人差があることを忘れずに。絵本はまだまだおもちゃの一つ。途中、子どもがページを勝手にめくっても、見守りましょう。
- 『がたんごとん がたんごとん』安西水丸 作 福音館書店
- 『だるまさんが』かがくいひろし 作 ブロンズ新社
- 『ぴょーん』まつおかたつひで 作・絵 ポプラ社
- 『しろくまちゃんのほっとけーき』 わかやまけん 作 もりひさし 作 わだよしおみ 作 こぐま社
- 『わにわにのおふろ』小風さち 文 山口マオ 絵 福音館書店
- 『ぼくのくれよん』長 新太 作・絵 講談社
- 『たまごのあかちゃん』 かんざわとしこ 文 やぎゅうげんいちろう 絵 福音館書店
3歳「物語の入り口」
生活の言葉のやりとりがスムーズになり、言語理解が進む時期。そして絵本の物語が、「お話の中の世界」であることを理解できるように。そして徐々にお話の世界に入り込み、楽しめるようになりますが、まだ入り口に立った状態。物語より、車や電車の絵本が好みの場合もあるので、子どもの興味を尊重しましょう。
- 『きんぎょが にげた』 五味太郎 作 福音館書店
- 『おおきなかぶ』 A・トルストイ 再話 佐藤忠良 画 内田莉莎子 訳 福音館書店
- 『わたしのワンピース』にしまきかやこ 作 こぐま社
- 『ぐりとぐら』なかがわりえこ 作 おおむらゆりこ 絵 福音館書店
- 『はらぺこあおむし』エリック・カール 作 もりひさし 訳 偕成社
- 『ぞうくんのさんぽ』 なかのひろたか 作・絵 なかのまさたか レタリング 福音館書店
4・5歳「想像の世界へ」
この時期に現実と想像の世界に区別が付き、本格的に想像の世界に入り込めるように。「行きて帰りし物語(今ここの世界から物語の世界へ行き、また帰ってくる)」を楽しみ、それを友だちと共有してごっこ遊びなどに取り込むことができます。それぞれの子どもの心が動くストーリーに、たくさん触れましょう。
- 『おふろだいすき』 松岡享子 作 林 明子 絵 福音館書店
- 『からすのパンやさん』 かこさとし 作・絵 偕成社
- 『キャベツくん』 長 新太 文・絵 文研出版
- 『三びきのやぎのがらがらどん』 マーシャ・ブラウン 絵 せたていじ 訳 福音館書店
- 『すてきな三にんぐみ』 トミー・アンゲラー 作 今江祥智 訳 偕成社
- 『もりのなか』 マリー・ホール・エッツ 文・絵 まるきるりこ 訳 福音館書店
- 『かいじゅうたちのいるところ』 モーリス・センダック 作 じんぐうてるお 訳 冨山房
松本短期大学 幼児保育学科
生田恵津子 教授
教授として大学で教鞭をとる一方で、福音館書店の地域講師として、大人に向けたお話し会などを開催。絵本を通して、大切な人からの愛情や思い出が子どもの心に残り続けることを大切にしている。