家族で産後うつを防ぐために! パパのメンタルヘルスクリニック。

育児中に感じている不安を募集すると、多くのパパからお悩みが到着しました。そこで、本誌連載「周産期のこころのこと」でおなじみ、医師の村上寛先生に緊急取材! 読者の皆さんのリアルなお悩みに、アドバイスをしていただきました。今回は、パパから届いたお悩みに限定しましたが、村上先生からの助言は、ママも参考になることがたくさん。ぜひ、パートナーと一緒にお読みください。育児中の皆さんの心の負担が、少しでも軽くなりますように!
※この記事はイクジィ2024年6月号で紹介した記事から抜粋してご紹介しています。
誰にでも起こりうる、産後のメンタルヘルス不調。
「産前産後に発生するメンタルヘルスの不調は、ママだけでなく、パパにも起こりうること」
そう話すのは、周産期のメンタルヘルスケアを専門とする、医師の村上 寛先生。
「妊娠・出産・育児に関わっていると、どうしても心身ともに疲労が蓄積されます。まず、ママは間違いないですよね。パパの視点から見ても、生活環境の変化や経済的な不安など、さまざまな変化が急に起こり、さらにそこに“親”という肩書きが新しく付与される時期でもあります。心理的に負荷がかかってしまうのは当然です」
男女で比較したときに、親になる実感を抱く過程に、差が生じてしまうのも要因のひとつ。
「良くも悪くも、女性は妊娠すると、細かな体の変化や定期的な検診などで、断続的に実感が湧き、親という肩書きに徐々に順応していきます。一方男性は、子どもが誕生してからでないと、実感できないというタイプが多い傾向に。この急激な変化に、戸惑ってしまうんです。そうならないためには、やはり妊娠中から積極的に夫婦でコミュニケーションを取り、同じ速度で親になっていくことが理想ではあります」
近年は、ママだけでなく、パパの産後うつ問題にも精力的に取り組まれている村上先生。もしパートナーの様子がいつもと違うと感じた場合、自分にできることは?
「まずは、ご自身を責めないでください。皆さん、『私のせいで、私がもっと頑張らないと』と攻めてしまいますが、それは違います。外部に助けを求めることも大切。『一度カウンセリングを受けてみない?』と提案して、受診をしたり、保健師さんなどの第三者に助けを求めてください。産後うつは、ママであろうがパパであろうが、個人がもともと持っている、ストレス耐性などが影響します。過去にうつ症状に悩んでいた方は、より注意してください」
教えて村上先生! お悩みQ&A
イクジィ読者のパパの皆さんから届いた質問に、村上先生が真摯に答えてくれました。これからパパになる方はもちろん、育児まっただ中のパパ、そしてママも、ぜひ読んでみてくださいね。
妻の要求に対応しきれず、イライラさせてしまうことが多かった産後。 あのとき、どうしていればお互い気持ちよく過ごせたのでしょうか?
イライラさせないことをゴールとせず、穏やかな雰囲気のときに腹を割った会話を!
まず、イライラさせないことがゴールではないはず。イライラさせたことは通過点であって、イライラの原因がどこにあるのかを考えることが大切です。感情を出すことは悪いことではありません。むしろ、パートナーのイライラはSOSのサインです。そのイライラをどう抑制させようかと考えるのは、いわば臭い物に蓋をするという考え方。もしパートナーがイライラしていたら、その原因を一緒に探っていくことが必要です。
ただし、イライラしている状態で話し合っても、なかなか冷静に会話をすることができませんよね。お互いが穏やかな雰囲気のときに、「なぜあのときイライラしていたのか、今後のパートナーシップのために教えてほしい」という、腹を割った会話をしてみてください。すると原因を知ることができますし、相手もSOSの伝え方をもっと変えてみようと気づくきっかけになると思います。過ぎた過去のことでも、きちんと会話をしてみると、新たな発見につながるはずです。
妻がママになってしまい、恋人感がなくなってさみしいです…。こんな気持ちを抱くことはおかしいですか?
変動する関係性が不安材料に。パートナーシップの確立を目指して。
恋人や夫婦関係の間にある「好き」という感情は、不安定で変動するものです。だからこそ、少しでも変動すると不安になってしまいます。では、恋人関係、夫婦関係、父親・母親関係、この3つに共通するものは何だと思いますか?
それはパートナーシップです! パートナーシップは、努力次第で安定させられるもの。そして、恋人であろうが夫婦であろうが、あるいは離婚しようが、どんな関係に変わったとしても、常に一貫して追求していけるのが、パートナーシップの良いところだと思います。「妻がママになってしまってさみしい」と感じている今は、二人のパートナーシップに対して受け身の状態と言えます。そうではなく、あなたが主体となって、「この人のパートナーとして、いったい自分は何ができるんだろう」と考えてみましょう。変動して不安定になりやすい恋人関係を追求するより、良いパートナーシップを築くことをおすすめします。
育休の取得を考えていますが、社内で取り残されるのではと急に不安になっています…。
そのための夫婦です。コミュニケーションを大切にして!
もし育休を取得することでキャリアアップができないと悩んでいらっしゃるなら、「なぜキャリアをあげないといけないのか」という自分の考えに、まずは疑問を持ってみてください。その考えが、幼少期から親や周りに「キャリアをあげないといけない」と言われ、影響を受けた外部由来なのか。もしくは、自分自身の価値観で確立させたものなのか。まずは自問自答、またはパートナーと話して、その区別を明確にしてみましょう。もしキャリアアップが外部由来で自身の考えではないと気づけたら、そこから仕事に対する自分の考え方を決めていけばいいのです。
そして、やはりキャリアアップを目指したいと思うなら、夫婦でそれを共有し、しっかりと話し合うことです。キャリアアップを夫婦で目指す場合も、「この5年は私ががんばるから、次の5年はあなたががんばる番」など、コミュニケーションが取れてさえいれば、答えが見つかるはずです。
パパイヤ期に突入し、何をしても拒絶され…。子どもにイライラして、さらに自己嫌悪に。気持ちの切り替え方法を教えて!
NO!と言えることは大事なこと。先を見据えることが解決のヒントに!
今回のケースは、たまたまイヤなターゲットがパパなわけですが、人であれ物であれ、何かをイヤと言って自分の意思を伝えることは、とても大事なことだと僕は思っています。
今後大きくなってくると、性に関する悩みに直面することがあります。例えば、誰かから性交渉を求められたときに、年齢的なものや自分の気持ちで判断して、きちんと「NO」と言えることは大切です。子どもは、成長過程で自分の意思表示の方法を学んでいくわけですが、幼少期のイヤは、芽生えの段階です。困ったときは、今の一瞬をみるのではなく、10年、20年先を見据えて考えてみてください。「このイヤイヤ期は、10年、20年先に、わが子がきちんとNOが言える人間に育つための過程なんだ。将来に生かそう」と、少し俯瞰して捉えてみることで、気持ちがラクになるかもしれません。
第一子と第二子で成長の差を感じてしまいます。こんなとき、どうすればいいのでしょう?
育児の基準を第一子にせず、夫婦なりの育児基準を確立させましょう。
現状、第一子が育児の基準になっていて、その基準と第二子を比較して不安になっている状態です。まずは自分自身で、あるいは夫婦で〝育児の基準〟を作ることをおすすめします。例えば、「私たちはこういう方針で育児をしていこう」と夫婦で話し合って決めてみてください。そして、その基準を通して、第一子と第二子に向き合ってみましょう。そうやって明確な育児基準が自分の中にあると、子ども同士で比べることがなくなります。一人っ子の場合も同様です。
育児をしていると、常に不安や問題に直面し、心が揺さぶられるものです。しかし、育児基準が確固たるものなら、多少揺さぶられたとしても倒れることはありません。この基準については、産前から話し合えておけると理想ですが、実際は難しいことも。産後でも、パートナーと一緒に話し合う機会を設けて、自分たちなりの育児基準を見つけてみてください。
仕事と家庭のバランスがうまく取れず、悩んでしまいます。
ときには諦めも必要です。偏りがあっても問題ではありません!
まず、僕自身が悩んでいます(笑)。そもそも、仕事と家庭のバランスは必ずしも取らなくていいのではないでしょうか? 特に育児中は思うようにならないことが多く、ある程度は現実に身を任せる部分が必要に。バランスを取ることを諦めると、不安が晴れるかもしれません。
もしバランスを取りたいと思うなら、パートナーとしっかり話し合い、お互いに補い合うことです。例えばスポーツ選手は、年齢的に活躍できる期間が限定され、その期間は競技のウエイトが上がります。でも引退後には、家庭のウエイトが上げられるように。そのバランスは、そのときどきで変わって当然のことです。仕事と家庭のバランスは、どちらに傾いたとしても間違いではないはず。パートナーに、「仕事が忙しい時期になったら、家庭の部分はちょっとお願い」など、夫婦間でしっかり話し合って納得できれば、仕事に集中することも良いのではないでしょうか。