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 【子どもアートさんぽ】vol.1 安曇野ちひろ美術館「ナンセンスの奥にある、まっすぐなまなざし」 

 【子どもアートさんぽ】vol.1 安曇野ちひろ美術館「ナンセンスの奥にある、まっすぐなまなざし」 

デザイナー・小林萌さんによる子どもと一緒に楽しむ〝アート〟連載がスタート。中信エリアのアートスポットをてくてくおさんぽしながら、アートの魅力を紐解きます。さて、今月はどちらにおさんぽへ?

安曇野の緑と風に包まれるように佇む、ちひろ美術館。 その静かでやさしい空間で、絵本画家・長新太さんの展覧会〈てなわけで20年。魅惑のチョウ、シンタ展〉が8月31日まで開催されています。
安曇野ちひろ美術館は、絵本画家・いわさきちひろの作品を中心に、絵本と子どもをめぐる文化を紹介する美術館でもあります。


建物の中に足を踏み入れると、木のあたたかさとやわらかな光に包まれて、自然と目や耳が澄むような、声が小さく静かになります。けれど、どこか堅苦しさがなく、親子でふらりと立ち寄れる空気がとても心地よい場所。大人と子どもが一緒にアートを楽しむことが気兼ねなく体験できる。そんな親子での初めての美術館体験がちゃんと考えられている場所だと感じます。 

ナンセンス絵本の王様とも呼ばれる長さん。でもその表現の背景には、戦争を経験し、日常が突然ひっくり返るような現実を見てきた人のどこまでもまっすぐなまなざしがありました。 

展示室に一歩足を踏み入れると、ふしぎでユーモラスな世界が広がっています。ピンクのゾウ、しゃべるおにぎり、ごむあたまのポン太郎…大人の私には「これはなんだろう?」と立ち止まってしまうような絵も、子どもたちは声をあげて笑い、指さして、すぐに世界へ飛び込んでいきました。その自由さ、言葉にする前に飛び込みたくなる楽しさこそが、長新太さんが大切にしていた“ナンセンス”の魅力なのかもしれません。 

今回の展示では、戦後80年という時間軸も個人的には重ねて鑑賞しました。長新太さんもまた、若くして戦争を経験したひとりです。戦争によってすべての価値観がひっくり返された時、それでも、それだから思いやりややさしさをナンセンスという形で描いた人。そのおかしい絵の奥には、「二度とこんなことがあってはいけない」という強くて静かな思いが感じられました。それは、どんな時代でも今を生きる子どもたちに、まっすぐに向けられたメッセージのようにも思えました。 

我が家の子どもたちと一緒にまわったこの展覧会。作品の意味を説明しようとしても、うまく言葉にならないことも多いけれど、「なんで?」「へんなの〜」「これ、おもしろい!」と自由に反応する姿に、長新太さんが描いた自由な世界がそのまま重なって見えました。 

アートは「わかる/わからない」でなく、「変だな」「なんだか好き」「引っかかる」と感じることから始まる。遠くに見える木に、風船が引っかかっていて、、とても気になる。私が子どもたちとの会話で見つけた、アートとの出会いの例えです。(これはあまりにも独特な感じ方かもしれませんが笑)そんな当たり前のことを、言葉で伝えなくても子どもたちはちゃんと感じ取って、知っていくのかもしれません。 

ナンセンスは、ただの冗談ではなく、今を楽しくおもしろがって生きていく術のようなもの。現実にちゃんと向き合った人だからこそ描けた、やさしさと覚悟の表現。長新太さんの絵を通して、笑って、立ち止まって考えて、想像して。そんな時間を、親子で一緒に過ごせた展覧会でした。 みなさまもぜひ足を運んでみてください! 

安曇野ちひろ美術館

安曇野ちひろ美術館
所在地
長野県北安曇郡松川村西原3358-24
電話番号
0261-62-0772
営業時間
10:00~17:00
※GW(4/26~5/6)と7/19~8/31は9:00~17:00
定休日
毎週水曜日(祝休日開館、翌平日休館)
※GW(4/26~5/6)、7/19~8/31は無休
※展示替えのための臨時休館あり
※冬期休館あり(2025年の開館は11月9日まで)
駐車場
あり
キッズ・妊婦対応
ベビーカーOK(バリアフリー)、授乳室あり、キッズスーペースあり、ベビーシート(女子トイレ)あり、多目的シート(多目的トイレ)あり
LINK
入館料:大人1200円、18歳以下・高校生以下無料
保護者割引:18歳以下の方に同伴する保護者(子ども1名につき2名まで)は900円
親子で参加できるイベントも多数開催

小林萌さん

デザイナー vent de moe(ヴァン・ドウ・モエ)代表

1988年長野県生まれ。大学在学中に独学で服飾やデザインを学ぶ。卒業後は文化財団やアートマネジメント業を経て、手仕事の分野へ歩む道を変える。2018年、日本の職人とともに歩むブランド〈vent de moe/ヴァン・ドゥ・モエ〉を立ち上げ、扇子やスカーフの製作、テキスタイルデザインを行う。2015年より松本市へ移住。近年はグラフィックデザインやアートワークの領域を横断しながら、企業や個人店のCIデザイン、VIデザイン等、最近では松本市美術館ミュージアムショップのロゴ、パッケージデザインを担当するなど多岐に渡りデザインの仕事をおこなっている。2児の母。
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