未来の子どもと自分のために。やさしく始める「プレコンセプションケア」入門
子どもの「性教育」に悩むのは、親自身が“性”をタブーとして育ってきたからかもしれません。この連載では、恥ずかしさや不安をやさしくほどきながら、親が自分の性知識をアップデートするヒントをお届けします。“知ることが、子どもを守る力になる”。今日から少しずつ、一緒に考えていきましょう。
連載第1回目は、松本市健康づくり課の皆さんに、今話題になっている「プレコンセプションケア(=妊娠前の健康づくり)」について、親が知っておくべき理由を教えてもらいました。 やさしいケアの始め方を紹介します。

プレコン=未来へつなぐ健康のバトン
——最近、「プレコンセプションケア」という言葉を聞くことが増えました。でも、言葉だけではよく分かりません…。プレコンってどんな意味ですか?
プレコンセプションケア(以下、プレコン)とは、英語で 「preconception care」と書きます。 これは「pre(前)」+「conception(妊娠)」+「care(ケア)」=“妊娠する前から自分の体を大切にする” という意味です。
松本市健康づくり課では、2023年から公式HPで紹介を始め、プレコンの普及に力を入れています。
——妊娠する前ということは、妊産婦さんの健康の話でしょうか?
そう感じる人が多いですが、答えはNOです。
妊娠と聞くと「自分には関係ない」「女性の話」と思いがちですが、プレコンはすべての年代に共通する“健康づくり”なんです。つまり、今の自分の生活習慣やカラダの状態が、今後の自分の健康やこれから生まれてくる命にも繋がっているということです。
プレコンは、妊娠がゴールではない
——松本市ではどんなプレコンの取り組みをしていますか?
全世代を対象に、さまざまな取り組みを行っています。
例えば、小中学生に健康について考えるきっかけとなるようなお便りを配布したり、HIVや性感染症の予防教育など、幼少期から当たり前に健康や性を学べる環境作りを進めています。今後は、高校・大学・専門学校を対象に、「プレコン」をテーマに“将来の自分”を考えるステップへ進んでいける機会もつくりたいと考えています。
——子どものころから健康リテラシーが育つことは、親としてもうれしいです! 大人向けには何かされていますか?
出産後の家庭には、新生児訪問として保健師や助産師が訪問します。今年度から配布する資料をアップデートし、次の妊娠に向けた健康づくりについてお伝えしています。
具体的には、プレコンセプションケアの考え方の説明をするとともに、今後の家族計画も話題にすることも。たとえば、第二子を希望されている方には、出産から次の妊娠への健康づくりについてお伝えします。
健康づくりは生活習慣が基本なので、産後の食事についてもアドバイス。産後は骨粗しょう症予防のためにも意識的なカルシウム摂取が大切です。実は、産後はカルシウムの吸収率が高い時期でもあります。こうしたタイミングを逃さず、健やかな体をつくるお手伝いをしています。
——妊娠がゴールではないんですね。
そうなんです。語源から妊娠がゴールのように受け取られがちですが、プレコンは妊娠・出産に関わらず、「みんなが健康で元気に生きていくための考え方」です。将来妊娠するかどうかに関係なく、すべての人に役立つヘルスケアなんですよ。

女性だけでない、男性のプレコンって?
——ということは、男性にもプレコンは関係していますか?
もちろんあります! 男性の健康も、将来の妊娠や子どもの健康に関係します。
運動不足、睡眠不足、ストレス、過度な喫煙・アルコール摂取などは、自分自身だけでなく未来の子どもにも影響します。たとえば、精子の数の減少、妊娠率の低下、赤ちゃんの先天異常のリスクが高まることなどが挙げられます。
また、不妊の原因は男性にもあると言われています。質の良い精子を育てるには、健康的な生活習慣が大切です。精子をつくる精巣には適した温度があって、温めすぎはNG。通気性の良い下着を選ぶことも、ひとつの工夫です。
また、プレコンにはライフプランの具体化も含まれます。家族計画を夫婦で話し合い、それに向けた健康づくりを進めること自体がプレコンなんですよ。
——そうなんですね。おすすめのアクションはありますか?
まずは「プレコンノート」に、自分のライフデザインを書き出してみましょう。100歳までの人生を見通す設計になっているため、今まさに子育て中でも遅くありません。子どもがいない方は将来の希望時期を、すでに子どもがいる方は第二子・第三子の計画を考えるいいきっかけになると思います。
他にも、年代ごとに気をつけたい病気を知ることも大切です。生活習慣病のリスクは年齢とともに高まり、また男女で異なるリスクもあります。 たとえば女性は、30代以降は乳がんや子宮体がんなどのリスクが上がります。いたずらに恐れるのではなく、定期的な健診で自分の体の状態を把握することが、今と未来の健康を守ります。

「プレコンノート」には、5つのプレコンアクションが紹介されています。アクション5では、理想の人生グラフを記入するページが。客観視しながら、自分の健康と未来に向き合ってみよう。夫婦で話合うきっかけのツールとして、活用してみるのもおすすめ。
プレコンノートのダウンロードはこちら
出典:国立生育医療研究センター
親だからこそ、自分を大切にしよう
——「プレコン」という言葉だけ聞くと難しそうですが、つまり“自分を大切にする”ということなんですね。
まさにその通りです! プレコンは、「自分、そして子どもの未来の健康を守る生き方」ともいえます。
親になると、子ども優先で自分の健康が後回しになりがちですが、親の健康への意識や行動は子どもに連動します。
たとえば、こんなことから始めてみるのはいかがでしょうか?
・早寝早起きを家族の基本に
・一緒に料理して一緒に食べる(食育とリズムづくり)
・性について親子で学び、話せる空気を家庭に取り入れる
・喫煙習慣の見直しや適度な運動
・年1回の健診を当たり前に
プレコンは、いつから始めても遅くありません。今日の小さな一歩が、自分と子どもの将来へつながる健康のバトンになります。
取材協力:松本市健康づくり課
赤ちゃんからお年寄りまで、すべての年代の“健康づくり”の事業を行う課。生活習慣の改善を呼びかけたり、食育への取り組み、妊娠・出産にまつわることなど、さまざまな健康づくりをサポート。松本市が行っているプレコンセプションケアについてはこちらから。
※この取材は、2025年9月12日に行われました。松本市健康づくり課の取組について、最新の情報は、同課に確認ください。

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