妊娠・出産はゴールじゃない。助産師と考える、親になってからのこと。
妊娠や出産を経て、子育てが始まってから、「うまくいかない」「こんなはずじゃなかった」と感じたことはありませんか?この連載で伝えたい“性”は、体や心、生きることを含めた“生(せい)”のこと。子育ての中で感じる不安や戸惑いも、心からの大切なサインかもしれません。
連載2回目は、“命の現場”に携わる専門家・長野県助産師会の皆さんにお話を伺いました。私たちが経験してきた産後を改めて振り返りながら、今の暮らしが少し楽になるヒントを教えていただきました。これからの子育てを、ちょっと前向きに考えるためのお話です。
妊娠・出産は、スタートなんです

——性教育は受けてきた私たちですが、その学びは、親になったあとの体や心、生活の変化まで想像できるものだったでしょうか。
多くの方が、学生時代に「受精卵」や「妊娠のしくみ」などを学んできていると思います。
けれど、その知識が、実際の妊娠や出産、そして親になってからの生活や、体や心の変化とどうつながるかを考える機会はなかったのではないでしょうか。
その結果、妊娠や出産に関する知識はあっても、いざ親になったあとで、その変化に戸惑ったり、自信が持てずに悩んだりする方が少なくありません。
私たちは、そうした声を現場でたくさん聞いてきました。
——情報はたくさんあるのに、不安になってしまうんですね。
今は、ネットやSNSで簡単に情報が手に入る時代ですが、正しい情報ばかりとはかぎりません。それは多くの方が感じているのではないでしょうか。
だから、どれを信じたらいいか分からなくなって、かえって不安が大きくなることも、あるのだと思います。
——子どもが欲しいと思ったときに、妊娠や出産がひとつのゴールのように感じていた方も多いのでは?
妊娠・出産は人生の大きな出来事ですし、ひとつの目標になりやすいのは、とても自然なことです。
でも、実際に出産された方の多くが実感しているとおり、妊娠・出産はゴールではなく、その先の生活へと続くスタート。
赤ちゃんを産むと、すぐに育児が始まり、その毎日は、目の前の命を守りながら、生活を回すことで精一杯になります。
だからこそ、出産の前から、赤ちゃんのことだけでなく、自分のケアやパートナーとの役割分担など、産後の生活を具体的にイメージしておくことが、とても大切なんです。
「こんなはずじゃなかった」――産後の現実に、戸惑うのは自然なこと

——助産師さんは、たくさんのママやパパの声を聞いてきたと思います。その中で、よく耳にするのはどんな声でしょうか?
「赤ちゃんとの生活が、こんなに大変だと思わなかった」
「想像していた育児と、全然違った」
という声は、本当によく聞きます。
産後は、ママの体が回復しきらないまま育児が始まり、心身ともに負担が大きい時期です。
体の不調が続いてしんどくなったり、ホルモンの影響で、気持ちが不安定になることも。
「赤ちゃんはかわいいはずなのに、つらい」
と感じてしまう方がいるのも、無理のないことです。
——パートナーに対しての気持ちが変わるという話も聞きますが…。
子どもが生まれることで、二人の関係は「恋人」や「夫婦」から、「子どもを一緒に育てるチーム」の関係へと変わっていきます。
その変化に戸惑い、すれ違いが生まれるのは珍しいことではありません。
産後は、寝不足や体の痛みが続くなど、ママの負担が一気に大きくなります。
その大変さを、パートナーと同じイメージで共有できていないと、
「分かってもらえない」
「一人で頑張っている気がする」
と感じやすくなります。
最近は育休を取るパパも増えていますが、何をどう支えればいいのか分からず、
「気づいたら、ママが赤ちゃんの世話も家のことも全部やっていた」
という声を聞くこともあります。
だからこそ大切なのは、パートナーに
「今、何が一番しんどいか」
「どんなサポートがあると助かるか」
を、できるだけ具体的に伝えること。
言葉にしづらければ、手紙やメッセージでもいいと思います。
産後はそうしたすれ違いが起こりやすい時期だと知っているだけでも、お互いの接し方は変わってくるのではないでしょうか。
——なるほど。「知っている」というだけでも、お互いに気持ちが少し楽になりますね。
産後は、ママの体や心と、家族の生活が大きく変わる時期。
それをお互いに理解していれば、
「これは自分だけじゃない」
「助けを求めていいんだ」
と思える瞬間がママ自身にも増えたり、パートナーもママの変化に気づきやすくなります。
——そうしたすれ違いを減らすために、できることはありますか?
もし可能であれば、産前にパートナーと両親学級やパパママ学級などに参加してほしいですね。
産前は、出産や育児についての知識を得るだけでなく、
「産後、どんな生活になりそうか」
「お互いに、どんなサポートが必要になりそうか」
を一緒に考える大切な時間でもあります。
忙しくて参加が難しい場合は、助産院などで個別に相談することもできますよ。
もちろん、産後になってからでも遅くはありません。
「もっと早く知りたかった」と感じたことこそ、これからを見直すきっかけにしてもらえたらと思います。
「昔はこうだった」に、どう向き合えばいい?

——親世代から言われるアドバイスに、モヤっとするという声も聞きますが。
助産師としても、そうした相談を受けることはよくあります。
「昔はこうだった」「こうした方がいい」と言われて、
「今は違うのに」
「その考え方は、今の育児とは合わない」
そう感じてしまうこと、ありますよね。
言われ方によっては、ついカチンとしてしまうのも無理はありません。
今の子育ては、情報も選択肢もたくさんあります。
その中から自分なりに考えて選んでいる分、それが否定されたように感じてしまうことも、あるのだと思います。
——助産師さんから見て、昔の育児についてはどう感じていますか?
昔の育児の当たり前が、すべて間違っているわけではありません。
たとえば、妊娠中に
「体を冷やさない」
「首とつくところは温める」
といった考え方は、今でも大切にされています。
一方で、
「妊娠中は二人分食べる」
という考え方は、今は量より質を重視する方向へ。
「すぐ抱っこすると癖になる」
「授乳はきっちり◯時間おきに」
といった考え方も、赤ちゃんやお母さんの様子に合わせて柔軟に対応すればよいとの考えになっています。
——親世代からの言葉を、どう受け止めたらいいのでしょうか。
昔の育児の「当たり前」は、すべてが正解でも、すべてが間違いでもありません。
「なるほど」と思えるところは取り入れて、「今の自分たちには合わないな」と感じるところは、無理に従わなくても大丈夫です。
もし迷ったときは、私たちのような専門家を間に入れて、一緒に考えるのも、ひとつの方法です。
最近は、おばあちゃんと一緒に相談に来られるご家族もいるんですよ。
助産院などでも気軽に相談できますので、世間話をしに来るくらいの気持ちで、どうぞ気負わずに足を運んでみてください。
困ったときは、一人で抱えなくていい

——「これでいいのかな」と迷ったときへの、アドバイスはありますか?
育児には、決まった正解はありません。
子どもも家庭もそれぞれに違って、その親子ごとに合うやり方があります。
だからこそ、迷うのは自然なこと。
もし一人で抱え込んでいるなら、誰かに頼ってほしいと思っています。
そのために、私たち助産師もいます。
——どんなタイミングで頼っていいのですか?
「もう限界」と感じるまで、我慢する必要はありません。
「これって普通なのかな?」
「ちょっと聞いてみたい」
そんな段階でこそ、相談していただきたいです。
分からないまま頑張り続けるより、分からない時点で話してもらえた方が、その親子に合ったケアを一緒に考えることができます。
スマホの画面で検索を重ねるより、実際に人と向き合って話をしてほしいと思っています。
——助産師さんに相談したいと思ったときは、どうすればよいですか?
各地域にある助産院は、気軽に相談できる身近な場所です。
妊娠中に配布された助産所マップも参考に、気になる助産院に一度問い合わせてみてください。
また、助産師は助産院だけでなく、病院の産婦人科はもちろん、地域の保健センターが行う新生児訪問や定期健診、自治体が実施する両親学級や育児相談など、さまざまな身近な場所で相談に応じています。
こうした場所は、何かトラブルが起きてから相談するところではありません。
ちょっと誰かに聞きたい、話したい、そんな気持ちで話をしてもらえれば大丈夫です。
——最後に、子育てに励んでいる方へメッセージをお願いします。
「今、少ししんどいな」
「このままでいいのかな」
そんな気持ちがあるときは、体や心が出している大切なサインかもしれません。
自分の体や心を大切にすることは、わがままでも、甘えでもありません。
妊娠や出産、子育ては、思い描いた通りに進むことの方が少ないもの。
振り返ってみると、
「あんなに不安にならなくても良かったかも…」
「少し気にしすぎていたかもしれない」
「もっと力を抜いても良かったかも…」
と、気づくこともあるのではないでしょうか。
その気づきは遅すぎるものではありません。
今の生活の中で、
「ちょっと見直してみようかな」
「ここは頼ってみようかな」
そう思えるだけで、子育ては少し楽になります。
この記事が、これまでを否定するものではなく、
「次に迷ったときは、誰かに聞いてみよう」
「助産師さんに相談してみようかな」
そう思えるきっかけになればうれしいです。
取材協力:一般社団法人 長野県助産師会
女性の一生を支える助産師、約220名が所属。長野県内を10地区に分け、地域に根ざした活動を行っています。
無料電話相談、オンライン相談、おしゃべり会など、妊娠・出産・子育ての悩みを、気軽に相談できる場を開いています。
■電話無料相談「性と健康の助産師相談」
電話:0263-31-0015(木曜のみ10:00〜14:00、19:00〜21:00)
妊娠・出産・子育てなどについて、無料で相談できます。「これって聞いていいのかな?」と思ったときも大丈夫。迷ったときは、気軽に助産師さんに相談を。便利な公式LINEアカウントも。
※この記事は、2025年9月10日に行われた取材に基づいて制作しています。
性にまつわるコラボ連載を発信中!

「カラダとココロの教室」は、中信地域出産・子育て安心ネットワーク協議会とコラボした性の連載で、中高生に知ってほしい性のことをやさしく発信しています。一方イクジィでは、「親こそ“性”と向き合おう」と題して、親だからこそ知るべき性の話を紹介します。
本記事でもご協力いただいた長野県助産師会の中高生向けのコラボ記事「10代から始める“性と命”の話。助産師さんに聞いた大切なこと」もぜひご一読ください。
同じテーマをそれぞれの目線で掘り下げていく新連載。今後もさまざまな角度で「性」や「生き方」についてお届けしていきます。親も子どもも、一歩ずつ、一緒に学んでいきましょう!