流行しているという「百日咳」についてお教えください
【2019年12月号掲載】
百日ぜきが流行していると聞きました。その症状や流行の現況、対処法、予防策などを伺えたらと思います。小さい子の親が、特に気をつけなければいけないことなどあれば、併せてお教えください。
は百日咳菌の感染によって起こる病気です。特有の性の咳発作を特徴とする急性気道感染症で、生後6か月未満の乳児では重症化しやすく、死亡する危険性もあります。感染すると7〜10日の潜伏期の後、通常の風邪症状(咳、鼻水など)で始まりますが、徐々に咳が激しく頻回になっていきます。この時期をカタル期といって約2週間続きますが、この後、特徴的な痙攣性の咳になっていきます。これは「コンッ!コンッ!…」という強く短い咳が息をする暇もなく連続的に起こった後、息を吸うときに笛の音のような「ヒュー」という音が出るという一連の発作を繰り返すようになります。
この咳嗽発作(レプリーゼといいます)には強い咳による嘔吐を伴うこともあります。この時期を痙咳期といい、2〜3週間続きますが、乳児にとっては最も危険な時期です。発熱はないか、あっても微熱程度ですが、特に夜間に呼吸もできないほどの強く激しい咳のために顔面の静脈圧が上がるので、顔全体がんで顔の皮膚に点状出血が出たり、目の充血や鼻出血が見られたりすることもあります。生後3か月以下の乳児期早期では特徴的な咳嗽発作がなく、急に呼吸を止めてしまう無呼吸発作を起こしてチアノーゼ、けいれん発作や完全に呼吸が止まってしまう呼吸停止に至ることがあります。合併症としては肺炎や稀にですが脳症もあり、乳児では特に注意が必要です。
その後回復期に入り、2〜3週間かけて激しい咳嗽発作は徐々に軽くなり、発作の間隔も伸びてやがて消失していきますが、回復するまでには発症から2〜3か月を要します。
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現在日本では生後3か月から4種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)の定期接種が行われています。初期免疫として20日以上の間隔を空けて3回接種し、3回目終了後6か月以上の間隔を空けて追加免疫として接種します。ただ、追加免疫後4〜12年で予防効果が弱くなってくるため、近年は小学生や大人の感染者が増えて問題になっています。そのため現在、日本小児科学会では小学校入学前の1年間に1回、さらに11歳〜12歳の間に1回、3種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)を任意(=自費)で追加接種することを推奨しています。現在11歳〜12歳の間に公費で行っているのは2種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風)で百日咳が入っていません。将来的にはこの公費接種を3種混合ワクチンに置き換えられたらいいのですが、現時点では不可能なので、自費で接種するしかありません。
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大人や小学生以上の子どもの百日咳では咳が長期にわたって続きますが、乳児に見られるような特徴的な咳嗽発作はなく、特に高熱も出ずに回復していくので診断がとても難しいのですが、この間にはしっかり排菌しているので、まだワクチンを接種していない乳児に感染させてしまう危険性があります。小学生以上の子どもでは高熱もなくただしつこい咳が続いている状態なので、授業中に指摘されたり夜も眠れなかったりするほどのひどい咳にならない限り、医療機関を受診せず、普通に登校しているケースも多いと思われます。
まだ4種混合ワクチンを接種していない赤ちゃんがいる家庭で、ご両親や年長の兄弟が長引く強い咳をしている場合は要注意です。特に大人で1週間以上続く強い咳がある方は、百日咳の可能性を考えて、たとえ熱がなくても早めに医療機関を受診していただきたいと思います。
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診断のための検査としては、後鼻腔ぬぐい液を用いたランプ法という方法と血液を用いた抗体検査などがありますが、検査するタイミングやワクチンの影響等によって判定が困難なことがあります。治療薬はエリスロマイシンやクラリスロマイシンなどの抗生物質で、カタル期から始めるとより効果的です。ワクチン未接種の乳児については無呼吸発作の危険性があるため、入院治療となります。通常、未治療の場合、排菌は咳の開始から約3週間続きますが、上記の抗生物質を開始すると5日後には排菌しなくなるといわれています。症状に対する治療としては鎮咳去痰剤、気管拡張剤などがあります。
なお、学校保健安全法では「特有の咳が消失するまで又は5日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで出席停止」とされています。